yugen project

開催趣旨  1  2  3   4   | 展覧会

本プロジェクトWorld of Yugenは紙の再生を美的創造の行為として幽玄の依り代とした史実にたちかえり、現代美術として追体験する場を提起いたします。100年以上前に造られ、枯れて美しい古紙と手書きの古文書を、あえて水に戻し、古代になされた再生をイメージしながら独自の技法で幽玄の気を呼び戻そうとするものです。

発明以来2000年あまり、紙は情報の媒体として文明をささえつづけてまいりました。情報革命が加速し、目に見えない情報伝達の手段が世界を覆う今日、情報媒体としての紙の主機能は新しい技術に大部分代替されていくものと思われます。それにより機能的な役割は軽減され、精神の依り代としての感性機能がより鮮明になり、芸術のメディアとして現代によみがえることが出来るのです。

私の制作は、機能的な面からの紙の再生を超えて、その時代を生きた人々の肉声と文化を自身で受け止めて、内省を重ね、再構成することで現代に蘇らせることです。そうすることで、私の手元に長年眠っていた古文書や古紙が、芸術の永遠の時間軸に場を得て、合理を超越した日本の美学である幽玄の世界への道標となるのです。

人類の存亡をかけた環境戦争に直面した現代にあって、自然との共生を願う人々は現代の無常感ともいえる近未来にたいする悲観的なイメージに憂慮を強めています。

和紙文化の温故知新から生まれた私の作品に対峙し、森羅万象をつかさどる自然の摂理と自然を畏敬することであたえられる豊穣と美を思い返し、未来を拓く力を再確認されることを念願いたします。

2008年3月
伊部 京子

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