yugen project

開催趣旨  1  2   3  4   | 展覧会

15世紀、世阿弥は時間芸術である能楽の真髄を幽玄とみなし、文学としてもすぐれたシナリオを書き、舞、お囃子、ステージもふくめ、総合芸術として幽玄の時空を極めました。貴族文化と禅に深く傾倒し、心と技の修練をつくすことで到達できる芸域の理想を幽玄とし、その思想と作品を後の世に書き伝えました。シャークピア生誕の100年以上前のことなのですが、能楽は今でも世界最高のパフォーミングアーツとたたえられ、現代の舞台芸術に影響を与え続けています。

生きることが今ほど容易でなかった動乱の時代にあって、無常感を超越し、森羅万象をつかさどる真理と究極の美を具現したこの時代の芸術に対峙する時、われわれは不意をうたれ、時を越えて深い感動に引き込まれ、言葉では言い尽くせない、ありあまるものとしての幽玄の世界を直観することが出来るのです。時代の与える文化的諸条件を徹底的に追求した極限において、芸術の普遍性としての高みへの超脱を成し遂げた偉業は、禅の精神をよりどころとした命がけの革命的な行為として、世界の文化史に永遠に記憶されるところです。

戦乱が終焉し、平和が続いた江戸時代に、和紙文化は庶民にまで普及し、繁栄を極めました。西洋式製紙の機械生産が導入され、安価な洋紙が大量に供給されるに従い衰退し、20世紀のはじめ5万軒あった紙漉きは現在四百軒たらずに激減しました。省力化のために薬品や機械が導入され、質の低下はさけようがないのも悲しい現実です。19世紀までは当たり前であった風格ある和紙は、経済性最優先の時流に逆らい、伝統に則った質を最優先しようと決意したほんの一部の匠たちにより水と空気の汚染されていない山里で、文化財修復や美術用紙として作り続けられています。